なぜ今、トラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT) に注目するのか?
私たちのNPOは、最初のプロジェクトとして、トラウマフォーカスト認知行動療法の専門のトレーナーをアメリカから日本に招待することに決めた。
その理由は、日米両国に次のような背景があったからだ。
近年、アメリカの十代の里子たちのメンタルヘルスについての、調査結果が広く注目を浴び、彼らの54パーセントが過去1年間にメンタルヘルスの診断を受けていたことがわかった。彼らのPTSD(心的外傷後ストレス障害)の割合にいたっては服役軍人の2倍に当たる25パーセントという結果が出ている。
この調査結果を受けて、里子たちになるべく早期の段階でメンタルヘルスのサービスを与えるという動きが見られるようになった。そして、子どもたちにはただ単にプレイセラピーなどの治療を与えればよい、と考えられていた時代は終わり、今は、エビデンス・ベースド・プラクティス Evidence Based Practice (通称EBP)が主流になった。EBPとは臨床実験でその効果が証明されている治療方法のことだ。2007年、ワシントン州では議会で可決された特別予算により、被虐待児のためのEBPを使った早期の治療が推し進められていくようになった。
そのEBPの中でも、子どものPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療法として高い評価を受けているのが、トラウマフォーカスト認知行動療法Trauma Focused Cognitive Behavioral Therapy (通称TF-CBT)だ。トラウマの回復と、虐待を受けた子どもに多く見られる行動障害の改善に効果があると証明されたからだ。
日本では、この数年間で、米国のエビデンス・ベースド・プラクティスの治療法を取り入れてゆこうとする動きがさかんになった。臨床心理士や精神科医たちが、トラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)のトレーニングを開発者から直接受けるために米国に渡った。この療法の開発者の著書“Treating Trauma and Traumatic Grief in Children and Adolescents”(Judith A. Cohen, Anthony P. Mannarino, Esther Deblinger) が、近い将来に日本語に訳され出版される。TF-CBTの米国のウェブサイトも日本語に訳され、公開されることになっている。日本では、子どもへの虐待件数が急増する中、彼らへの効果的な治療法が今まで以上に必要になっている。昨年の東日本大震災では多くの子どもたちが身内の死を体験し、複雑なPTSDや悲嘆反応の症状をうったえ、早期の治療を待っている。