一緒にくらしていたのは
ラナ(25歳・テキサス工科大学) 翻訳:武舎るみ
作者のことば
これまでの人生のあらましを詩にしました。4連の詩にしたのは、私の半生が4つの時期に分けられるからです。第1連は母と一緒にくらしていた時代。その間の記憶のうち、この詩で取り上げたいと思ったものはあまりありませんでした。第2連は父のもとでくらした時代。叔母とともに朝早くから起き出して父のお弁当を用意するなど、メキシコの文化に触れた時期でもあります。このように異文化のくらしを経験することになったのは、母が白人で父がメキシコ人だからです。つづく第3連は祖父母に引き取られた時代、第4連は祖父母から引き離されて、日本の児童相談所にあたる「児童保護サービス(CPS)」のサポートを受けていた時代です。その間に血縁のない里親の家庭で育てられる経験もしたので、それについてもこの詩で触れました。そして自分の半生を振り返っての結論が最後の長い一文。この詩でいちばん大事な部分です。
(詩の中で登場する「タマレス」はメキシコなどラテンアメリカの伝統的な家庭料理。トウモロコシ粉を練って作った生地に肉などの具を詰め、トウモロコシの皮で包んで蒸したもの。日本では「タマル」「タマーレ」などとも呼ばれる)
一緒にくらしていたのは
一緒にくらしていたのは 麻薬と酒におぼれ 怒りや恐れを露わにする女の人
一緒にくらしていたのは 家中にたむろする動物たち
一緒にくらしていたのは 夜ふかしの姉たち
一緒にくらしていたのは 缶詰やレトルト食品ばかり食べている家族
一緒にくらしていたのは
憎しみをぶつけることもあったけれど あふれんばかりの愛も注いでくれた男の人
一緒にくらしていたのは 朝4時半に起き出して父さんのお弁当を作る叔母
一緒にくらしていたのは 祝日にタマレスを手作りする家族
一緒にくらしていたのは 日曜日にチョコディップコーンを食べる家族
一緒にくらしていたのは 教会の歌を歌ってくれたおばあちゃん
一緒にくらしていたのは 土曜日に釣りに連れていってくれたおじいちゃん
一緒にくらしていたのは 寝る前にバニラアイスやバニラウエハークッキーを食べる家族
一緒にくらしていたのは
寝る前にベッドの脇にひざまずいて一緒にお祈りをしてくれたおばあちゃん
一緒にくらしていたのは 孤独しか与えてくれなかった里親
一緒にくらしていたのは 本当の幸せというものを教えてくれた人たち
一緒にくらしていたのは グループホームの大勢の傷ついた仲間たち
一緒にくらしていたのは 私のことをわかってくれる生涯の姉妹
一緒にくらしてきたのは ばらばらになったり くっついたりしたいくつもの家庭
その中で私が手にしたのは ついえることのない愛